『マインド・コントロールからの脱出』(恒友出版)パスカル・ズィヴィ

39 愛がたりない日本社会
日本の社会は経済的には恵まれていると思います。でも、マザー・テレサの言うとおり「日本には愛がたりない」し、他人を人間として受け入れる姿勢がたりないと思います。日本の社会は、人間関係が曖昧で、白黒をはっきりさせないところがありますが、それ以上に、他人に対してものすごく冷たい社会であると感じます。

48 子どもへの無理解
私はこの(カルト)問題にたずさわって十年になりますが、その間に多くの元メンバーからこのような言葉を数多く聞かされました。「自分たちのために両親が一生懸命に努力している」ということを、彼らはよく理解しています。しかし、それよりももっと両親に求めているものがあるのです。それは、自分たちの人格そのものを受け止めて欲しいということです。残念ながらそのことは、日本の家族のなかではあまり大切にされていません。
私がこのことについて話すと、多くの両親は親としての立場を否定されたように感じるようです。彼らはいままで、愛をもって子どものためにできるだけのことをしてきました。彼らが悪いかどうかを問題にするつもりはありませんが、いつも自分たちの価値観だけで子どもを育ててきて、子どもの価値観についてはほとんど考えてこなかった両親が多いのです。

50 日本の教育システムの欠陥
エドワード・ブジョストフスキはこう言っています。
「学校では、テストの成績のみが重視され、また進学中心の教育が行われる。そのために進学組と就職組に分けられる。子供たちは、競争意識や個人主義が養われ、お互いに成績によって評価しあううようになる……」
中学校、高校の生徒たちは、先生の教えに従いながら、友達どうし同じような考え方をもって学校生活をしています。しかし、こういうグループにも問題があります。友人と行動をともにできなかったり、こころを通じて遊ぶことのできない者がいた場合、その子は、「おかしい」「わがまま」とか、あるいは「弱い」とか言われて、いじめの対象にされてしまいます。学校の先生は「連帯」の大切さを教えることができず、場合によっては、先生がいじめる側に立っているのではないかと思われることさえあります。

54 若者の求めているもの
とくに若い労働者のためによく活動している小林祥二神父は、こういうふうに説明しています。
日本の若者が心から叫んでいることは「自分たちの声を聞いて欲しい、一人の人間として認めて欲しい、という叫び。本当に信頼し合える友達が欲しい、という望み。現状に対して満足していないし、社会に対する矛盾を感じながらも、何が本当のことか分からない中で、本当のことが知りたい、という信じる心。徹底した管理の中にあって、縛られたくない、自由が欲しい、という解放の望み。もっと、より人間らしく成長していきたいという望み」である。

62 恐怖心
(カルト)は言葉をとおして「恐怖」を与えています。とにかく、メンバーに対して、、いつも脅かすような言葉を与えます。例えば、
「あなたは組織を離れたら、あなたの両親が病気になる、あるいは事故で死に、そして、地獄に落ちます」
「み旨を知らない人に罪は少ないが、み旨を知った人が途中でやめるとその罪はとても大きい……」
その恐怖心をとおして、……メンバーの自由な判断を奪いますから、メンバーは教祖や組織、あるいは教会の行動や問題について考えることが不可能になります。判断のつかないことはすべて、教理や教祖、あるいは組織の判断に依存することになります。その結果、組織または教祖の思いのままに利用されることになります。ほとんどのは快適カルトはこの方法を悪用しています。
恐怖が教えから発生したものであるため、この恐怖を理解するために、もう一度教えに戻り、教えの理解を深めるようになります。この繰り返しにより、教えを真理として受け入れなければならなくなります。でもそれは、恐怖のなかで恐怖が増幅されていくだけです。

76 思考停止
「人の思考停止は支配者の喜びである」――アドルフ・ヒットラー

110 両親の子どもの無理解
実は、ほとんどの親は、自分の子どもの本当の姿を知りません。知らないうちに自分の子どもの心を押さえつけていて、よい子の仮面を選び取らせてきました。けれども、この仮面の下には、傷つきやすいこころと多くの不満という問題があったのです。

117 リハビリテーションには愛が必要
リハビリテーションには愛が必要です。愛するということは非常にむずかしいことですが、最後にジャン・バニの言葉を紹介しておきます。たいへんに参考になると思います。
「愛するということはどういうことでしょうか。愛するとは、何かをしてあげることではありません。なぜなら、一心に何かをしてあげても相手を踏みつけることがありますし、こちらの行為を見せつけることによって、あなたには価値がなく、役に多立たない人間であると感じさせてしまうことがあるからです。
愛するとは、その人の存在を喜ぶことです。その人の隠れた価値や美しさを、気づかせてあげることです。その人に向かって「あなたが生きていることは素晴らしい。私はあなたが生きていて幸せです。あなたの存在をとても喜んでいます。あなたは大切な、価値ある人です」ということを伝えることです。
人は愛されて初めて、愛されるにふさわしいものになります。そして何かができるようになります。積極的になります。愛されることによって、人はこの世界で何か果たすことができるのです」

ジャン・バニエ『小さきものからの光』
長沢道子/訳(あめんど刊)

122 カルトの罠
若者たちは、現実に対して満足できませんから、……(カルトの)教えをとおして自分の夢を実現させようと思います。……罠は自分自身の問題と社会の問題から逃避させることにあったのです。

123 リハビリテーション
ある破壊的カルトの元メンバー、ウェディ・フォード女史の言葉を紹介しておきます。
「リハビリテーションのためには、忍耐、努力、勇気が必要です」

126 ありのままに受け入れてくれる友人
とくに、自分をありのままに受け入れてくれる友人は大切です。

146 脱会の苦しみ
とくに、両親には、自分の子どもが脱会するときにどのくらい苦しんでいるのか、こころから理解して欲しいのです。脱会したから問題が終わったのではなく、脱会したからその問題がはじまるのだと受け止めて欲しいのです。脱会した人たちには、自分の帰る場所が必要です。こころのよりどころが必要です。そのためには、両親をはじめ家族の人たちの深い愛と理解が必要だと、私は思うのです。


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