# | Page | 項目 | 適用 | |
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114 | 230 | アイヒマン実験 | ||
27 | 68 | 暗黙の諸構造 | 暗黙の諸構造が、そうと気づかれずに……行動を規定している。 | |
7 | 22 | 『イェルサレムのアイヒマン』 | ハナー・アレント(一九六三年) | |
94 | 199 | 居心地 | 居心地のわるい事態を避けるためには、まだしも服従の方が耐えやすいと多く(略)が思うのである。 | |
77 | 189 | イデオロギーによる正当化 | 【自発的】服従を得るには、イデオロギーによる正当化が必要不可欠である。それがなければ、個人は自分の行動が望ましい目的に役立っていると考えることができないからである。そのように思いこませたときにのみ、たやすく服従を獲得することができる。 | |
42 | 157 | イニシアティヴの委譲 | 服従も同調もともに、自分以外の者にイニシアティヴをゆずり渡すことである。 | |
76 | 188 | 【上に立つイデオロギー】一定の社会的場面のなかで合法的な社会的コントロールの起点を知覚することが、代理状態への移行のための必須条件である。 | ||
12 | 24 | 服従の永続 | ……服従しつづけるのは何のためであろうか?第一に……その場に釘付けにする拘束要因がある。礼儀を重んずる気持ち……手助けをするとの最初の約束を守りたい気持ち、途中で投げ出すみっともなさ、など。第二に、一連の思考調整が行われ、権威と決裂しようとする……決心をにぶらせる。 | |
53 | 173 | エス | エスに発する本能的衝動はただちに行動へとは導かれず、超自我の抑制的チェックに付される。 | |
100 | 208 | 回避 | 自分の行為がどういう結果をもたらしているかを見まい、聞くまいとする。 | |
24 | 30 | 加害の禁止 | あらゆる道徳的原理のうち、普遍的な承認に最短距離にある原理は、害もなく権威もない無抵抗なものを苦しめてはならないという原理である。 | |
9 | 23 | 価値 | 価値の力は、個人に襲いかかっているもろもろの力のなかの小さな一つの力に過ぎない。 | |
22 | 27 | 考えるだけ | 占領下のヨーロッパにおけるいわゆる『知的レジスタンス』−−思考の歪曲によって、自分が侵略者に抵抗しているつもりになっていたもの−−も、気休めの心理学的メカニズムにふけっていただけである。 | |
142 | 273 | 『機械の中の幽霊』 | ケストラーは、社会的ヒエラルキーに関するすばらしい分析のなかで、次のように述べている、『これまでくり返し力説したように人間の利己的衝動は、その献身的傾向にくらべると、歴史的危険としてははるかに小さい。ごく簡単に言えば、過度の攻撃的な自己主張に走るものは、社会の制裁を招く。社会の除け者になり、ヒエラルキーからはじき出される。他方、忠実な信者は、ヒエラルキーにぴったり密着するようになる。教会、党、あるいは、どのような社会的ホロン(訳注、ケストラーの造語。……全体の一部分であるが、その部分としては全体であるようなもの)であれ、その中心部に喰い込み、それに自分の同一性をゆずり渡す』(日高敏隆・長野敬訳、ぺりかん社、1969年) | |
115 | 233 | 欺瞞の自画像 | いつも驚かされるのだが、全国の大学をあちこち、服従実験について講演して回っていたとき、わたしが会った若い人たちは、被験者の行動を聞いてびっくり仰天し、自分なら絶対にこんなことはしないと断言するのだが、その舌の根も乾かぬ数か月のうちに、軍隊にはいり、電気ショックを送ることなんか足元にも及ばないような行為を平気でしでかすのであった。この点において、彼らも、権威の目的に身をゆだね、その破壊活動の道具となった他の時代、他の国の人たちと少しも変わらない。 | |
15 | 25 | 義務 | 『義務を果たしていただけ』 | |
133 | 257 | 虐待 | 虐待された者は虐待されたことを忘れないのであり、虐待者に対して適切に反応する。 | |
134 | 264 | 虐待経験を忘れない | 服従を拒否した被験者よりも服従した被験者の方が権威主義の傾向が強い。 | |
2 | 11 | 強制力 | 進んでやる気があり、強制が欠けているほど、服従は協調的気分に彩られ、個人に対して力のおどしや罰がほのめかされるほど、服従は恐怖によって強制される。 | |
132 | 255 | 虚構 | 虚構が啓示的機能をもち得る。(略)演劇の可能性そのものが、虚偽の善用にもとづいています。 | |
26 | 64 | 緊張 | 緊張は、二つまたはそれ以上の対立する反応傾向が同時に存在しているために生じると考えられる。 | |
97 | 202 | 理論的にいえば、自立的に機能できる存在がヒエラルキーに組み込まれたときには緊張が生じやすい。 | ||
98 | 204 | 緊張の徴候はすべて、権威が個人をまざりっけのない代理状態に移すことができなかったことを示す証拠である。 | ||
104 | 213 | 緊張 | 回避、身体的転換、最小限服従法、ごまかし、社会的安全保障の追求、被害者への非難、口先だけの不同意など、これまで述べてきたメカニズムは、各々、特定の緊張と結びついているかもしれない。たとえば、胸苦しくなる内蔵的反応は回避によって減らされ、自己像は、ごまかし、最小限服従法、不同意によって守られる、など。【もっと批判的に言えば】、【これらのメカニズムは次のような究極の目的に奉仕するものと見なされなければならない】。【すなわち】、【これらのメカニズムのおかげで被験者は】、【葛藤体験を耐えられる水準まで引き下げることによって】、【権威との関係をそのまま維持することことができる】のである。 | |
99 | 207 | 緊張緩和 | 邪悪な権威が、緊張緩和手段の非人格化と結びつくことほど、人類の生存にとって危険なことはない。 | |
121 | 235 | グック | ||
119 | 234 | 軍事訓練の目的 | 軍事訓練の全目的は、(略)自我のいっさいの痕跡を除去し、広範囲に及ぶ慣れを通じて、軍の権威を確実に内面化させることである。 | |
118 | 234 | 軍隊の基礎訓練の意味 | 数週間は基礎訓練に使われる。その表向きの目的は新兵に軍事技術をたたき込むことであるが、その根本的目的は、個人であること、自己であることのいっさいの名残をたたき出すことである。 | |
33 | 123 | 経験の強さ | 『たぶん、わたしたちはあまりに痛い目を見過ぎたのです』 | |
29 | 90 | 権威(目前の) | 権威が【眼の前にいる】ということは、被験者の服従または不服従を左右する重要な要因であった。 | |
73 | 186 | 権威組織への加入 | 代理状態への移行を起こさせる第二の条件は、権威を当該の権威組織の一環であると認めることである。権威を権威と認めるだけでは充分ではない。われわれに関係のある権威でなければならない。 | |
87 | 193 | 権威と従者の関係 | 権威と従者との関係は、強権をもつ人物がいやがる部下に行為を強制するといった関係と見なすことはできない。従者は権威の場面の定義を受け入れるから、行為は自発的に行われるのである。 | |
131 | 権威との合致 | 『……まったく意味と価値を欠いた人生を送りたいのであれば、単に伝統とか慣例とか権威とかに合致しているというだけの理由で、われわれの基本的経験に矛盾することを承認しないことが、われわれのつとめである。われわれは間違うかもしれない。しかし、われわれが承認することを求められている確実さがわれわれの経験する確実さと一致するのでないかぎり、われわれの自己表現は妨害される。権力が主張する規範に対してつねに広範な徹底的な疑惑が存在するということが、いかなる国家においても、自由の条件であるのは、そのためである。 | ||
116 | 権威による変貌 | 彼らは、権威によって変身させられ、自分の行動に対するいっさいの個人的責任感を放棄していた人たちであった。 | ||
47 | 164 | 権威の失落 | 権威が命令への服従を強いることに失敗すれば、そのたびに、権威のもつ権力の評価は低くなるという一般法則(ホマンズ、一九六一) | |
145 | 276 | 権威の存在 | ビアステットは、権威の存在は政府の存在よりも根本的な現象である、といみじくも指摘している。『……権威の問題は、適切な社会構造理論の根底そのものにある。……政府でさえ、ある意味では、単に政治的現象ではなく、第一に、そして根本的に社会的現象であり、そして……政府を生み出す母体は秩序と構造をもっている。政府の反対がアナーキーであるとすれば、社会の反対はアノミーである。いいかえれば、権威とは、狭い意味での純粋に政治的な現象ではない。権威は、政治的社会体制においてのみならず、その体制のすべてにおいて存在するからである。どれほど小さな、どれほど一時的な組織であれ、あらゆる社会組織に、それ自身の権威構造がある。 | 49 | 167 | 権威への屈服 | 権威への屈服は人間の非常に優勢な、力強い条件である。 |
70 | 184 | 権威服従を要求する規制 | あらゆる規制の系列のなかで、権威への服従を要求する規制が最高の位置を占めている。 | |
85 | 192 | 行為の定義づけは権威が | 【人々には】、【合法的権威が提示する行為の定義を受け入れる傾向がある】。すなわち、人間は行為を遂行するが、その行為の意味については権威に定義してもらうのである。 | |
35 | 153 | 行為の支配 | 行為はより高い地位の人に支配される。 | |
89 | 194 | 攻撃衝動のチェック | 正常な人間は、成長の過程で、攻撃衝動の表現をチェックすることを学習する。しかし、文化は、権威から発する行動に対する内的抑制を教えこむことにほぼ全面的に失敗している。そのため、権威に発する行動は、人類の生存にとってはるかに大きな危険となっている。 | |
108 | 216 | 攻撃性 | 攻撃性とは、他の生体を害しようとする衝動または行為を意味する。フロイドの見解によれば、破壊傾向はすべての人間に存在しているが、超自我または良心がその表現を禁止しているので、いつもたやすく発散されるわけではない。さらに、自我機能−−人間の、現実に面した側面−−も、破壊傾向を統制している。(もしわれわれが、腹を立てるたびに相手をなぐっていたら、結局はわれわれ自身が破滅する。だから、われわれはこらえるのである)。実際、これらの破壊本能はあまりにも認めがたいので、つねに意識化して検討できるとはかぎらない。しかし、それらの本能は、たえず表現を求めており、結局、戦争の暴力、サディズムの快楽、個人的な反社会的な破壊行動、場合によっては自己破壊に発散される。 | |
146 | 279 | 高潔の虚像 | 高潔な個人が、邪悪な権威に不断の戦いを挑んでいるといった図を思い描くのは、単純化し過ぎであろう。(略)高潔さという価値そのものも、その多くの面において、それ自体権威から引き出したものなのである。そして、権威のゆえに残酷な行為に走るものがいれば、それと同じくらい、権威のゆえに残酷な行為を控えるものがいる。 | |
34 | 149 | 行動の流れ | 行動というものは社会的ヒエラルキーの高い方から低い方へと流れる。 | |
92 | 197 | 行動連鎖の効果 | 同じ行為がくり返し要求される(略)そのことが自体が拘束要因となる。(略)自分のやったことを正当化しなければならなくなる。ある方向にいったん正当化がはじまれば、ゆき着くところまでいってしまわねばおしまいにならない。 | |
71 | 185 | 合法的権威知覚 | 【権威の知覚】。代理状態への移行のために必要な第一の条件は、合法的権威の知覚である。心理学的観点から言えば、権威とは、ある与えられた場面のなかで、社会的コントロールの立場にあると知覚された人物を意味する。(略)権威の力は、個人的特質からではなく、社会的構造のなかで知覚されたその立場からくる。 | |
136 | 267 | 個人の行動は状況による | 今世紀の社会心理学は一つの大きな教訓を明らかにしている。個人がどうふるまうかを決定するのは、彼がどんな種類の人間かということよりもむしろ、彼がどんな種類の状況におかれているかということなのである。 | |
143 | 275 | 個人への責任の転嫁 | 個人の行動はその性格に由来するというイデオロギーを、社会は喧伝している。このイデオロギーは、人々をして、【あたかも】自分一人で自分の行動をコントロールしたかのようにふるまわせる実際的効果がある。しかし、これは、人間行動の決定因に関するひどく歪んだ見方であり、正確な予測をの可能性を塞いでしまう。 | |
124 | 242 | 言葉 | 言葉がしばしばいいかえられる。言語水準において、行為が、各人の育ちの一部をなしている言語的道徳概念と直接的に葛藤しないようにするためである。 | |
140 | 272 | 子どもの不服従 | 親がもっとも心配のものとしてあげるのは、不服従である。(略)子どもの果てしない不服従は、どれほど権威を拒否し、自己を主張しようとしても、子どもの側に個人的責任の観念が欠けており、この点において、おとなの不服従とは異なっている。 | |
57 | 176 | コントロール状態 | 個人がヒエラルキー的コントロール状態にはいると、通常は個人の衝動を規制しているメカニズムは放棄され、より高い水準の機関にゆずり渡される。 | |
139 | 271 | 最初の社会関係−−服従 | 児童発達の研究者たちがずっと以前から認めているように、『最初の社会関係は、権威の指示を認識し、それに屈服する関係である』(イングリッシュ、1961) | |
90 | 195 | 自己像 | 人間にとっては、自分型の人々にいい人だと見えるだけでなく、自分自身にもいい人だと思えることが重要である。個人の自我理想は、内的抑制の重要な源泉である。(略)個人は権威に自分の価値を確認してもらおうとする。 | |
126 | 244 | 仕事ができる男 | 服従……任務を与えられ、仕事ができる男だという印象をもたれようと努力している。 | |
110 | 218 | 自己を道具視する | 服従実験での被験者たちを観察していると、この人たちは、少数の例外は別として、自分がやっていることをいやがり、しばしば不快に感じているが、それをやらざるを得ないと思っていることがわかった。(略)彼らは自分自身を権威にゆずり渡し、自分を権威の意志を実行に移す道具と見なしている。ひとたびそのように規定されると、抜けだすことができないのである。 | |
3 | 11 | 自主的行動 | 自分にとって重大な意味をもつ場面で、自主的に行動しようと努力しながらも、まだ充分そうできない人の姿ほど、もの悲しいものはない。 | |
141 | 273 | 指導者への依存 | 『集団心理と自我の分析』のなかでフロイドは、個人は自分の超自我の機能を廃棄し、ことの善悪を決める権利を全面的に指導者にゆずり渡す、と指摘している。 | |
74 | 187 | 自発的服従 | 合法的権威への自発的服従の場合には、不服従に対するおもな制裁は当人の内側からくる。その制裁は強制にもとづくものではなく、自分の役割に対する当人の義務感からくる。この意味において、【服従には】、【外的基盤だけではなく】、【内面化された基盤がある】。 | |
8 | 22 | 自分の行動 | 自分の仕事をしているだけで、特別な敵意を何らもっていない普通の人が、恐るべき破壊活動の一翼を担い得る。 | |
18 | 26 | 自分の行動を科学的真理の追求という社会に役立つ道徳的な、より大きな目的の一環と見る。 | ||
30 | 95 | 社会的原則 | 社会的原則は、行動の決定因としては弱い。 | |
37 | 154 | 社会的に規定された場面 権威とは、天下り式に命令されただけで生ずるものではなく、社会的に規定された場面のなかで特定の行動の場を占めている。 | ||
21 | 27 | 主観的感情 | 主観的感情は、行動に移さないかぎり、目前の道徳的問題とほとんど関係がない。 | |
125 | 243 | 上司への依存心 | 部下の心のなかでは、責任はつねに上の者がとってくれる。『権威による許可』への要求が非常に多い。 | |
69 | 184 | 昇進 | 『昇進』は個人に深い情緒的満足を与えるが、その真骨頂は、ヒエラルキー構造の永続性を保証することにある。 | |
48 | 166 | 人員の配置による操作 | 破壊的な官僚組織の有能な策略家なら、人員をうまく配置して、いちばん冷酷無情な者だけがじかに暴力に関係すればよいようにすることができる。人員の大部分を占めている男女は、実際の残虐行為から遠く離れているために、それを助ける職務を果たしていても、ほとんど緊張を感じないであろう。彼らは二重の意味で責任を免れている。第一に、合法的権威が彼らの行動を完全に是認しているため、第二に、彼ら自身は残忍な行為を実際にやっていないためである。 | |
50 | 167 | シンボルの介在 | 人類においては、直接、肉体的力を競うことによってというより、シンボルを介して取り次がれてゆく権威構造が見られる。 | |
56 | 175 | 服従の心理的適応 | 服従の心理は、より大きなヒエラルキーのなかで、その単位がどの位置に配置されるかには左右されない。忠実な国防軍(ヴエールマハルト)の、アドルフ・ヒトラーへの心理的適応は、最下級の歩兵の情感への心理的適応と相等しく、組織を通じてそれは同じである。最高の指導者の心理だけが、別の説明原理を必要とする。 | |
4 | 17 | 政治目的との連携 | 服従は、個人の行為を政治目的に結びつける心理的メカニズムであり、人々を権威の体系に縛りつける素質的要素である。 | |
6 | 18 | 責任 | ホップは、その場合の行為はいかなる意味においても実行者の責任ではなく、それを命じた権威にのみ責任があると述べた。 | |
16 | 25 | 責任感の消滅 | 責任感の消滅は、権威への服従のもっとも重大な効果である。 | |
32 | 112 | 責任転嫁 | ……権威に対する……最大級の反応が、上の人に問題をもち込むことであることに注目されたい。 | |
102 | 210 | 責任放棄と権威への屈服 | 個人的責任の放棄が権威への屈服の主要な心理的結果である。 | |
88 | 193 | 責任の喪失 | 代理状態のもっとも重大な結果は、個人が自分の指図している【権威に対して】は責任を感じるが、権威に命じられた行為の内容【については】責任を感じなくなるということである。道徳は、消滅するのではなく、根本的に違った点に集中される。従者が感じる恥や誇りは、自分が権威に求められた行為をどれほどうまくやったかということで決められる。 | |
52 | 169 | 潜在的な服従資質 | われわれは潜在的服従能力をもって生まれ、この能力が社会の影響と相互作用して服従的人間をつくり出す。 | |
17 | 25 | 組織の『逆擬人化』 | 人間がつくった組織を、あたかも人間の力を越えたところに存在し、人間の気分や感情ではどうにもならないものであるかのように扱う人たちがいる。組織や制度の背後にある人間的要素は否認される。 | |
65 | 178 | 代理状態 | 権威組織にはいった個人は、自分自身を自分の目的のために行動しているのではなく、他人の要望を実行している代理人と見なすようになる。ひとたび個人が自分の行動をこの観点から考えるようになると、彼の行動および内的機能様式に深い変化が起こる。この変化はきわめてはっきりしているので、個人は、この態度の変化によって、ヒエラルキーに組込まれる前にいた状態とは別の【状態】におかれたのだと言うことができよう。わたしはこの状態を【代理状態】(agentic state)と呼 ぶことにする。それは、個人が自分自身を他人の要望を遂行する代理人と見なしている状態である。この用語は、【自主性】、すなわち、個人が自分自身を自分の意志で行動している見なしている状態と対比して用いられるよう。 | |
66 | 179 | サイバネティックス的観点 | ||
67 | 179 | 主観的観点から言えば、代理状態とは、個人が自分自身を、より高い地位の人による規制に服さねばならない社会的場面におかれていると見なしている状態である。この場合、個人は、自分の行為の責任が自分にあるとは考えなくなり、自分自身を他人の要望を遂行する道具と見なしている。 | ||
78 | 190 | 代理状態に移ると、個人はそれまでの彼とは違った何ものかになり、彼の通常の人柄からたやすくうかがわれ得ない新しい特性をもつに至る。 | ||
79 | 190 | 中心人物の前で立派な仕事をやり、いい印象を与えたいと思う。 | ||
73 | 186 | 代理状態移行の第一条件 代理状態への移行を起こさせる第二の条件は、権威を当該の権威組織の一環であると認めることである。権威を権威と認めるだけでは充分ではない。われわれに関係のある権威でなければならない。 | ||
71 | 185 | 代理状態移行の第二条件 【権威の知覚】。代理状態への移行のために必要な第一の条件は、合法的権威の知覚である。心理学的観点から言えば、権威とは、ある与えられた場面のなかで、社会的コントロールの立場にあると知覚された人物を意味する。(略)権威の力は、個人的特質からではなく、社会的構造のなかで知覚されたその立場からくる。 | ||
112 | 代理状態への変貌 | 実験室では、普通の人たちが、一連の単純な操作によって、自分自身を、他人を害する行為へと至る因果の連鎖の責任ある一環とは思わなくなった。どのようにして責任が放棄され、個人が自分の考えをもたない代理人になるかの過程は、一般的重要性をもつ。(略)兵士、党員、服従した被験者に共通に見られるのは、どこまでも権威に屈服する同じ傾向であり、また、彼らは、無力な被害者を攻撃することからくる緊張を減らすために同じ心的メカニズムを用いている。 | ||
51 | 168 | 地位の承認 | メンバー全員が自分にあてがわれた地位を承認したとき、内的調和が確保される。他方、ヒエラルキーへの挑戦は、しばしば暴力を誘発する。このように、安定した社会組織は、環境に対処する集団の能力を増すとともに、集団内の関係を統制することによって、内部の暴力を減らすのである。 | |
80 | 191 | チャンネル合わせ | 権威からの放送に対しては最大限の受信力をもち、一方(略)信号は切られ、心理的遠ざけられる。 | |
123 | 242 | 忠誠・義務・規律の本質 | 【忠節】、【義務】、【規律】といった個人的価値は、ヒエラルキーの技術的必要からきている。個人はそれらを高度に人格的な道徳規範のように感じているが、体制の水準では、それらは、大きな組織を維持するための技術的前提条件に過ぎない。 | |
128 | 244 | 忠節・規律・自己犠牲 | われわれが個人においてかくも高く評価している忠節、規律、自己犠牲などの美徳が、戦争の破壊的組織の道具であり、人間を邪悪な権威組織に結びつける特性そのものであるというのは、皮肉なことである。 | |
117 | 234 | 徴兵と教練 | 新兵を新しい役割に強く拘束するため、忠誠誓言が用いられる。 | |
144 | 275 | 道具による麻痺感覚 | 道具や武器があいだにはいったために、抑制メカニズムが利かなくなったことをコンラート・ローレンツが述べている。『このことは、さらにいっそう、現代の遠隔操作兵器を使う場合にも当てはまる。発射ボタンを押す人は、自分の行為から完全に遮断されており、それを見ることも、聞くことも、あるいはその他の方法で情緒的に実感することもないので、兵器でそうすることができる。たとえ、想像力を負わされていたとしても……』『攻撃』TU、日高敏隆・久保和彦訳、みすず書房、1970年) | |
40 | 156 | 同調 | コンフオーミテイ | |
137 | 271 | 同調 | トクヴィルがするどく観察したように、同調は、民主化された人間関係の理論的な規制のメカニズムである。それが『民主的』であるというのは、圧力を加えられた者が、圧力を加えた者より上にしたにもならず、ただ同じようになるだけだという意味である。 | |
39 | 156 | 同調と服従の区別 | ||
41 | 157 | 同調に関連する実験 | S・E・アッシュ | |
95 | 201 | 道徳的罪悪感 | ある関係がヒエラルキーの関係であると定義されたなら、その構造を変えようとするいかなる企ても、道徳的罪悪と感じられ、不安、恥、困惑を惹き起こし、自己価値観を減少させる。 | |
11 | 24 | 道徳的要因 | 道徳的要因は、情報と社会条件を計画的に組み直すことによって、割合容易に握りつぶすことができる。 | |
10 | 23 | 道徳の影響力 | 個人の道徳感覚が及ぼす力は、社会的神話にもとづいてわれわれが信じているほどには効力がない。 | |
135 | 266 | 道徳判断の昇華 | 個人は成熟してゆくにつれ、いくつかの道徳判断の段階を経てゆく。(略)服従をつづけた者よりも決裂した者の方が高い水準の道徳判断に達している。 | |
25 | 52 | 内的確信 | 行動そのものは個人の内的確信から流れて出てくる。 | |
120 | 内面化された服従の基礎 | 内面化された強力な服従の基礎がある。(略)服従することによってのみ、兵士は自分自身を愛国的で勇敢で男らしいと思うことができる。場面はそのように定義されているのである。 | ||
17 | 25 | 人間のつくった組織 | 人間がつくった組織を、あたかも人間の力を越えたところに存在し、人間の気分や感情ではどうにもならないものであるかのように扱う人たちがいる。組織や制度の背後にある人間的要素は否認される。 | |
31 | 96 | 背景にある権威 | 【個人の服従は】、【彼がどのような状況のもとで行動していると感じているかということと関係があり】、【つねにこの関係を問題にしなければならない】。 | |
38 | 155 | 配列された人々 | 権威体系は、ヒエラルキーのなかに配列された人々のもとづいているに違いない。したがって、支配を決定する重要な問題は、誰が誰の上にいるかということである。どれくらい上にいるかということは、見分けのできる序列の存在とくらべたら、遥かにささいな問題である。 | |
83 | 192 | 場面の意味の再定義 | ある人が世界をどう解釈するかのその解釈の仕方を支配できたなら、その人の行動を支配できたも同然である。革命、戦争など、個人に異例の行動を要求する状況において、イデオロギー、すなわち、人間の条件を解釈する企てが、つねに全面に出てくるのは、そこに理由がある。政府はプロパガンダに多大の費用をかける。プロパガンダとは、出来事の意味についての公式な解釈である。 | |
93 | 198 | 場面の義務 | あらゆる社会的場面は参加者たちのあいだの実質的な同意の上に築かれているとゴフマン(1959) は指摘している。(略)『一定の社会的身分をもっている個人は、他の人たちにその身分にふさわしく評価され、扱われることを期待する道徳的権利をもっているという原則の上に、社会は組織されている。……場面の定義を提示し、自分はかくかくの種類の人間であるという暗黙のまたはあからさまな主張をするとき、個人は、他の人々に対して自動的に道徳的要求を出しており、その種類の人間が当然の権利として期待できる仕方で自分を評価し、扱うことを他の人々に強いているのである』 | |
84 | 192 | 場面の定義 | あらゆる場面について一種のイデオロギーがつきまとっている。それは、社会的状況の意味についての解釈であり、『場面の定義』と呼ばれる。それが提示するパースペクティヴによって、場面の諸要素が一貫性を得る。同じ行為が、あるパースペクティヴから見れば極悪非道に見え、別のパースペクティヴから見れば完全に正当に見えるかもしれない。 | |
130 | 245 | ハロルド・J・ラスキ | 『服従の危険』『……文明とは、何よりもまず、不必要な苦しみを人に与えないことを意味する。この定義に従えば、無思慮に権威の命令に従う者は、文明人と自称することは許されない。 | |
43 | 157 | ヒエラルキー | ||
19 | 26 | 被害者蔑視 | ドイツ……加害行為に先立つ、被害者への極端な蔑視である。……被害者の組織的蔑視は、被害者を残酷に扱うことを心理的に正当化する手段であり、虐殺、ユダヤ人迫害、戦争にはつきものであった。 | |
20 | 27 | 被害者蔑視 | ……被害者に苦痛を与えた【あとで】、被害者を苛酷な仕方で蔑視した事実は非常に興味深い。『あいつは馬鹿でわからず屋だ。ショックを送られるだけのことはある』……被害者をいったん苦しめてしまうと、……彼をつまらぬ奴だと見、彼自身に知的・性格的欠陥があるのだから、罰を受けるのもやむを得ないと考える必要に迫られたのである。 | |
68 | 183 | 非人格的権威への服従 | 文明社会であれ未開社会であれ、権威構造は必然的にあらゆる社会に存在しているが、近代社会は、【非人格的】権威に反応するよう個人に教えこむという付加的特徴をもっている。権威への服従は、アシャンティ人でも、アメリカの工場労働者でも変わりないだろうが、未開人にとって権威はすべて個人的に知っている人たちに限られているに反し、近代産業社会は非人格的権威に服従することを個人に強いており、したがって、個人は記章、制服、肩書きなどで示される抽象的地位に反応するのである。 | |
113 | 229 | ヒットラー下のドイツ人 | ドイツ人を服従にしばりつけていたメカニズムは、不服従にまつわる単なる一時的なばつの悪さや恥ずかしさではなく、権威との広範な関係を通じてのみ発揮し得る、より内面化された懲罰メカニズムであった。 | |
5 | 18 | 美徳としての服従 | 普通の市民が他の人間を殺すよう命令されて従うのは、命令に従うことが義務であると思っているからである。したがって、権威への服従は、長いあいだ美徳とされてきたが、邪悪な目的のために使われるとすれば、見直されなければならない。それは、美徳どころか、憎むべき罪となった。でないとすれば、何であろうか? | |
82 | 人を凌ぐ権威 | 権威は普通の人より何か大きなものと見られがちである。ともすれば個人は、権威を、単なる人間的願いや欲望を超越した命令を下す非人格的力と見なす。ある種の人にとっては、権威の立場にある者は超人格的性格を獲得する。 | ||
101 | 208 | 否認 | 明確な証拠を否定し、不快な出来事を都合のいいように解釈することによって、緊張を減らすメカニズムである。(略)服従……においてもっともよく見られたのは、行為を否認するのではなく、行為の責任を否認することであった。 | |
96 | 201 | 不安 | 感じた恐怖は、主として予感的なもので、未知のことについての漠然とした懸念にかかわりがある。このようなつかみどころのない懸念は【不安】と呼ばれる。この不安の源泉は何であろうか? それは、個人の長い社会化の歴史に淵源する。生物学的存在から文明人へと移る過程で、個人は社会生活の基本規則を内面化した。そのなかのもっとも基本的な原則が権威への尊敬である。それらの規則は、それに違反すると、感情生活が崩壊して自我をおびやかすため、内面的に強化される。 | |
138 | 271 | 服従 | 服従は、不平等な人間関係から生じ、かつそれを存続させる。したがって、その究極の表現において、ファシズムの理想的な規制メカニズムである。人間の不平等を基礎としている政府の哲学が、服従の絶対的美徳に高めるのは、論理的以外の何ものでもない。服従行動は、ヒエラルキー社会構造の情況のなかではじまり、その結果、上位の者と下位の者とのあいだで行動が区別されるようになる。上位グループと下位グループの概念を強調し、さらに、ブーツをカチッと鳴らして即座に命令を遂行する迅速かつ印象的な誇り高い服従を重視することが、第三帝国のトレード・マークであったのは、偶然ではない。 | |
127 | 244 | 服従実験の意義 | 人間が大きな制度的構造のなかに自分をユニークな人格に投入させたときには必ずそうなる不可避性である。 | |
111 | 227 | 服従実験のテーマ | 本研究(服従実験)が扱っているのは、残忍な刑罰によって屈服を強制された被圧迫者の服従では【なく】、社会から役割を与えられ、社会の要請に副いたいと願うがゆえにみずから進んで屈服する人たちの服従である。 | |
122 | 242 | 服従時の道徳感 | 自分のすべての行動が高い権威からの命令にどれほど忠実に従っているかと言うことに道徳感をもっている。 | |
28 | 73 | 服従主の変更 | 服従から不服従へ移ったというよりはむしろ、自分が服従すべき相手を変えたのである。……問題の解決は、権威の拒絶ではなく、わるい権威を排除してよい権威−−神の権威−−に従うことにあった。 | |
86 | 193 | 服従の基盤 | 服従の主要な認知的基盤をなしているのは、権威への(前述の)このようなイデオロギーの委託である。 | |
1 | 10 | 服従の本質 | 個人が自分を他の人の要望を実行する道具と見なすに至り、したがって、自分の行動の責任が自分にあると思わなくなることが、服従の本質である。 | |
109 | 217 | 行われた行為が行為者の動機と一致せず、社会的ヒエラルキーのより高いものの動機から発しているというのが、服従の本質である。 | ||
72 | 186 | 服装 | ある与えられた場面における権威を知らせるために服装が使われることが多い。 | |
103 | 212 | 不同意 | 緊張は、充分強力であれば、不服従に至るが、はじめのうちは、不同意という形で表現される。 | |
105 | 213 | 不服従 | 不服従は緊張に終止符を打つ究極の手段である。 | |
106 | 215 | 不服従 | 内的疑惑−−疑惑の表明−−不同意−−おどし−−不服従、それは茨の道であ(る)。 | |
107 | 215 | 不服従の代価 | 不服従の代価は、真偽を裏切ったという、身を切られるような思いである。道徳的に正しい行為を選んだのではあるが、被験者は、自分が社会的秩序を崩壊させたことで悩みつづけ、いったんは指示を約束した科学的研究を見捨てたという気持ちを完全にぬぐい去ることはできない。 | |
14 | 24 | 無責任 | 従順な……最も一般的な思考調整は、自分の行為の責任が自分にあると思わないことである。合法的権威……にすべてのイニシャティブを任せ、自分の責任を放棄する。自分を、道徳的責任をもって行動している人間ではなく、外的権威の代行者と見る。 | |
45 | 157 | 明示性 | ||
36 | 153 | 命令系統 | 個人がより高い権威から命令を受け、明示された対象に対してそれを実行するということが、権威体系が存立するための本質的条件である。首尾一貫した命令が、この体系が機能するための最低条件である。矛盾した命令を受けると、……誰がボスであるかを見出し、それに従って行動する。この点に関して決定する基盤がないと、行動は麻痺する。命令の発信源が首尾一貫性を欠くのである。 権威の回路が効力を維持するためには、このような矛盾をもっていてはならない。 | |
75 | 188 | 命令と権威の機能の一致 | 権威とは特定の状況のなかで知覚された社会的コントロールの起点である。その状況が、当該の権威になじむと見なされる命令の範囲を限定する。一般に、コントロールをする人物の機能と、彼が出す命令の性質のあいだには了解可能な何らかのつながりがなければならない。 | |
91 | 195 | 命令と代理状態 | 代理状態とはそこから服従行為が出てくる潜在状態である。しかし、潜在状態以上の何ものか、すなわち、引き金の役をする特定の命令が必要である。(略)命令には二つの要素がある。行為の定義と、その行為の実行の強制である。(略)命令は、特定の服従行為へと導く。 | |
44 | 157 | 模倣 | ||
13 | 24 | 有能な仕事ぶり | ……有能な仕事ぶりを示そうとするが、それに伴って、道徳的関心の狭小化が見られる。目標を設定し、善意を判断する高度の仕事は、自分が奉仕している権威……に任せてしまう。 | |
54 | 173 | 抑制の減退 | 【個別的要素が単独に機能するときにはきわめて重要である抑制のメカニズムは二次的となり】、【調整機関にコントロールをゆずる必要が優先される】。 | |
81 | 利益と不利益 | 地位のゆえに権威をもっている人は、利益を授け、不利益を蒙らせるのにもっとも好都合な位置にいる。 | ||
129 | 244 | 良心 | 各人には良心が具わっており、多かれ少なかれ、良心が、他の人々に対する破壊衝動の無制限な発散を抑制するのに役立っている。しかし、人間が体制的構造のなかに人格を埋没させると、自主的人間が姿を消して新しい動物が出現する。その動物は、個人的道徳の制約に妨げられることなく、人間らしい抑制から解放され、権威による賞罰のみを気にする動物である。 | |
55 | 174 | 良心の減退 | 個人が【自分の意志】で働いているときには、良心は活動する。しかし、彼が体制的に機能しているときには、より高い水準の部分からの指令は、内的道徳規準に照らし合わせて判断されない。内的道徳的基準によってチェックされるのは、自律的に、個人の内部に生じた衝動だけである。 | |
64 | 177 | 良心の後退 | 衝動的行動を規制している良心が、ヒエラルキーのなかにはいったとたんに、必然的に後退する。 | |
23 | 28 | 連鎖の一環 | 複雑な社会によくある危険な状況を例証する。自分が邪悪な行為の連鎖の途中の一環に過ぎず、行為の最終結果から遠く離れているときには、心理的責任を無視しやすい。……たぶん、これが、近代社会の社会的に組織された悪のもっとも一般的な特徴であろう。 | |
58 | 176 | 要約 | (1)組織された社会生活は、その一部である個人および集団に生存価値を提供する。 | |
59 | (2)【組織された】社会生活の能力をつくり出すために必要である行動的・心理的特徴は、どのようなものも、進化の過程によって形づくられてきた。 | |||
60 | (3)サイバネティックスの観点から言えば、自己調節的自動系を一つに調整されたヒエラルキーに組入れる際にもっとも一般的に必要なことは、より高い水準の機関からのコントロールを優先させ、個々の方向とコントロールを放棄することである。 | |||
61 | (4)もっと一般的に言えば、ヒエラルキーは、それを構成している諸要素が内部的に修正されないかぎり、機能できない。 | |||
62 | (5)社会生活における機能的ヒエラルキーは、これらの特徴をすべてもっている。 | |||
63 | (6)このようなヒエラルキーのなかにはいった個人は、必然的に、その機能様式が修正される。 |