トップページへ戻るUPDATE:01/01/02

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 母の入院と姉の緊急預かり 〜1〜

 一泊を余儀なくされた地方での仕事の帰り、高速道路を走っていると、携帯電話が鳴りました。わたしは長距離ドライブの時にはハンズ・フリーのイヤホン・マイクを装着しています。

「お母さんが入院されました。お姉さんはお一人なんでしょう?」

 優しいながら、差し迫った状態で話し出したのは区の知的障害者担当のSさんという方でした。

「緊急入所という手段があります。取りあえず、お姉さんをお預けになったら…」

 実は姉は54年間、一度も外泊をしたことがありません。躊躇していると、

「よい機会かも知れませんよ。外に出さず、自分で面倒を見ることばかりが愛情ということではないですよ…」

 なかば説得されるような形で、姉の入所が決まりました。入所期間は六泊七日。民間の施設でした。2日後、リフト付きで車椅子のまま、乗車できる移送サービス車を頼み、施設に到着。不安な面もちをしてる姉の前に膝を折って座り込んだ看護婦さんは、「いらっしゃい。大丈夫よ」と声をかけて、涎だらけの姉の手をしっかりと握りました。

 当初、短期であるとされた母の入院は1カ月以上にわたることになりました。病院のケースワーカーさんと連絡を取り合ってくれているSさんから電話が入ります。

「お母さん、入院が長引きそうですね。緊急入所は六泊七日なんですが、その2回分を確保します。これで2週間は大丈夫なんですが、そのあとは…
 都の児童相談所に連絡を取ってみます」

 区の紹介を受ける形で東京都の児童相談所に赴きました。姉は54歳、児童相談所というのはおかしいと感じます。しかし、知的障害者を扱うのは所轄は児童相談所となっています。

 相談に当たってくれたのは、児童福祉司のY先生という方でした。

「自分の手を離し、施設に預けるというのは、障害者の家族として怠慢であるという自責の念を感じるのです」

 わたしは開口一番、そのように切り出しました。Y先生は静かな口調で答えます。

「ご自分で面倒を見ることばかりが障害者の方を大切にすることにはなりませんよ。
 センターでは医師・看護婦が常駐し、その他のスタッフもいます。家庭ではできない治療・看護・介護ができますよ。ここは試すつもりで入所させてはいかがですか。
 いずれにしてもこのまま、ずっと入所するわけではないのですから、練習だと思われればよろしいかと思います」

 わたしが仕事に出て、誰もいない家で半日を過ごすのと、常時助けてくれる方々がいる生活と、どちらが本人にとって安心なのか、わたしは即座に答えは出ませんでした。しかし「試すつもり」というひとことで、ともかくお願いすることにしました。

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